J-PEACH News

《論文紹介part. 8》(2025年2月)

Factors Associated With Inadequate Gestational Weight Gain: A Prospective Multicenter Cohort Studyが2025年2月にNursing & Health Sciences にPublishされました!論文の概要を紹介いたします!

 日本では、妊娠中の体重増加が推奨量に達していない妊婦の割合が高く、これは低出生体重児(2500g未満)の増加と関連している可能性があり、この問題は公衆衛生上の重要な課題となっています。低出生体重児は、短期的には児の健康リスクや発達の遅れ、長期的には生活習慣病のリスク増加と関連があることが報告されています。妊娠中の体重増加が不足する要因としては、つわりによる食事量の減少、妊婦自身の「体重増加を抑えたい」という意識、さらには医療スタッフからの適切な指導の不足が挙げられます。

 本研究では、日本の4地域(山形、東京、大阪、福岡)に住む妊婦を対象に、妊娠中の体重増加の状況とその関連要因を調査しました。参加者は妊娠中期の質問票において、妊娠前の体重、現在の体重、体重増加に関する自己目標、医療スタッフからの指導の有無などに回答しました。妊娠中の体重増加が推奨値を満たしているかどうかを基準に、「適切または過剰増加群」と「不足群」に分類し、それぞれの要因を比較しました。

 解析対象者は626名で、そのうち52.6%が「不足群」に分類されました。妊娠前のBMIが18.5未満の人では、体重増加量が不足している割合が特に高いことが明らかになりました(P < 0.001)。また、妊娠中期の時点で妊娠前の体重を下回っている場合、体重増加不足となるリスクが大幅に上昇することが分かりました(P < 0.001)。さらに、妊娠中の体重増加に関する目標を設定していない、または推奨より低い目標を持つ妊婦が多く、これは医療スタッフからの指導が十分でないことと関連している可能性が示唆されました。特に、出産経験がある妊婦では、医療スタッフからの体重増加に関する指導の影響を受けやすい傾向が見られました。

 以上の結果から、妊娠前のBMIが低い妊婦に対する体重管理の重要性が再認識されました。妊娠中の体重増加不足を防ぐためには、医療スタッフが最新のガイドラインに基づいた適切な指導を行うことが求められます。また、妊娠前から適正なBMIを維持することや、つわりが落ち着いたタイミングから十分な栄養を摂取することが、低出生体重児のリスクを低減するために重要であると考えられます。

《論文紹介part. 7》(2024年11月)

Relationship between maternal egg consumption during lactation and the risk of developing egg allergies in 12-month-old infants: A multicenter cohort study が2024年11月にJapan Journal of Nursing ScienceにPublishされました!論文の概要を紹介いたします!

 食物アレルギーとは、食物たんぱくに対して、過剰な免疫反応が起きている状態です。乳児の食物アレルギーは世界的に問題となっており、日本の1歳児では、食物アレルギーのうち卵アレルギーが最も多く、5.3%が卵アレルギーだと報告されています。食物アレルギーの発症については、炎症のある皮膚から原因となる食物たんぱくが「経皮ばく露」されることによって免疫反応がおき、食物アレルギーを発症する一方で、経皮ばく露される前に、口から、つまり消化管に食物たんぱくが入ることで、アレルギー反応が抑制されるという仮説が提唱されています。

 卵アレルギーに関してもこの仮説は支持されていますが、授乳期早期の母乳を通じた児の卵摂取と卵アレルギー発症の関連については、十分に研究されていません。そこで、本研究では、授乳期早期の母の卵摂取量が、生後12か月の児の卵アレルギーの発症に関連するかどうか、児の授乳方法および湿疹を考慮して検討しました。

 産後1か月質問票から母の卵摂取量及び授乳における母乳育児の頻度について、生後6か月質問票から児の湿疹について、生後12か月質問票から児の卵アレルギー発症の有無についてのデータを、それぞれ収集しました。

 包含基準を満たした420名の児のデータを分析し、生後12か月時点で卵アレルギーの報告のあった児は27名(6.4%)でした。授乳方法及び湿疹で調整した母の卵摂取量は、児の卵アレルギーの発症との間に明らかな関連は見られませんでした。しかし、先行研究と同様に、生後6か月時点で湿疹のある乳児は、湿疹のない乳児と比べ、卵アレルギーを発症するリスクが有意に高くなっていました。このことから、児の母乳を通じた卵摂取の効果は確認できませんでしたが、湿疹を早期に治療するなど皮膚状態を良好に保つことが卵アレルギー発症予防にとって重要であると示唆されました。

《論文紹介part. 6》(2024年1月)

Factors Associated with Anemia and Iron Deficiency during Pregnancy: A Prospective Observational Study in Japanが2024年1月にNutrientsにPublishされました!論文の概要を紹介いたします!

 妊娠中の貧血は、世界的な女性の健康問題です。とりわけ日本人妊婦のうち23.4%は妊娠中に貧血を経験するといわれており、ヨーロッパ諸国19.2%と比較すると高い割合であることが知られています。妊娠中は、生理的な血液希釈(血液が薄まること)に加え、赤ちゃんや胎盤からの鉄需要が多くなるため、貧血になりやすい状態といえます。妊娠中の貧血は、早産、低出生体重児、妊娠中の抑うつに関連することはすでに明らかになっています。そこで本研究では妊娠後期時点に貧血と潜在性鉄欠乏(隠れ貧血)が、妊娠中のライフスタイルや栄養素摂取量、低出生体重児および早産と関連するかどうかを明らかにすることを目的として実施しました。

 その結果、80%以上の女性が妊娠後期時点の貧血または隠れ貧血であることが明らかになりました。経産婦であることは妊娠後期時点の貧血に関連していました。早産・低出生体重児の割合は、妊娠後期時点の貧血・隠れ貧血群で低い結果となりました。これは、本研究の貧血群の女性が早産・低出生体重児の発生率が低いと言われている範囲に分布していたことが考えられました。栄養素摂取については、エネルギー摂取量は正常群で有意に低かったものの、鉄やその他の栄養素摂取量に違いは見られませんでした。また多くの栄養素は食事摂取基準の推定平均必要量を下回っていました。本研究の女性の妊娠前のBMIは低い傾向にあり、慢性的な栄養素摂取不足の可能性が考えられます。そのため、医療者はエネルギー摂取量だけに着目するのではなく、栄養素にも着目して助言していく必要があります。

《論文紹介part. 5》(2023年11月)

Association of Eicosapentaenoic and Docosahexaenoic Acids Intake with Low Birth Weight in the Second Trimester: The Japan Pregnancy Eating and Activity Cohort Studyが2023年11月にNutrientsにPublishされました!
論文の概要を紹介いたします!

 日本では,2500g未満の低出生体重児の割合が1990年には6.3%でしたが2019年には9.4%に増加し,この割合は他の先進国と比べて高い傾向にあります。低出生体重児は,短期的には乳児死亡率・疾患率の上昇,長期的には,耐糖能異常等の生活習慣病の罹患率の上昇が明らかにされており,子どもの将来や健康の発展における重要な決定因子です。低出生体重児の要因には,喫煙や妊娠高血圧症候群の罹患等があげられますが,諸外国では妊娠中の母体の栄養摂取不足も原因の1つとして考えられています。特にエイコサペンタエン酸(以下,EPA)や,ドコサヘキサエン酸(以下,DHA)の不足は低出生体重児を増加させる可能性が報告されています。しかし先行研究では,EPA,DHAの摂取量は食事からのものに限られており,サプリメントによる摂取量は考慮されていません。そこで,本研究では日本人妊婦における食事とサプリメントを考慮した, 妊娠中期のEPA,DHA摂取と低出生体重児の傾向を明らかにすることを目的としました。

 参加者は妊娠中期(妊娠14~27週)に質問票に回答しました。EPAとDHAの摂取量は,簡易型自記式食事歴法質問票(brief-type self-administered diet history questionnaire)を用いて算出しました。また,過去1カ月間のEPA/DHAサプリメントの摂取頻度を尋ねました。質問票より得られた食事とサプリメントからのEPAとDHAの合計摂取量に基づき,参加者を低摂取群,中摂取群,高摂取群の3群に分類しEPA,DHA摂取量と低出生体重児との関連を分析しました。

 解析対象者は504名でした。結果は,妊娠中期のEPAとDHAの合計摂取量が少なくなるほど,低出生体重児の割合が高くなる傾向が認めらました(P=0.04)。出生児男女別においても同様に解析を行ったが,男児,女児ともに有意な傾向は認められませんでした。以上より,妊娠中期におけるEPA,DHA摂取量が少なくなると,低出生体重児の割合が高くなる可能性が示唆されました。妊娠後期に十分な量のEPA,DHAを胎児に移行するためにも,妊娠中期から EPA,DHA を含めた十分な量の栄養素を摂取することが重要であると考えます。

《論文紹介part. 4》(2023年8月)

Association of Salivary Porphyromonas gingivalis with Frequency of Meals, Smoking history and Oral care in Pregnant women: A cross-sectional studyが2023年8月にJournal of Nursing Science and EngineeringにPublishされました!
論文の概要を紹介いたします!

 妊婦の歯周病罹患率は50~69%と報告され、歯周病は妊娠期の女性が罹患しやすい歯科疾患として知られています。歯周病菌は数多く存在するが、その中でもPorphyromonas gingivalisP. gingivalis)は、早産に影響を与える歯周病菌として注目されています。先行研究では妊娠初期の妊婦において、喫煙習慣の有無や食生活の違いによりP. gingivalisの量に有意な関連があったことから妊娠中に起こるP. gingivalisの量の変化は妊婦によって異なると考えられます。妊娠中期から妊娠後期にかけては増大した子宮により胃部が圧迫され、1回の食事摂取量が減少することで食事回数が増える等の妊婦特有の生活に変化する時期です。そのため、この時期は口腔内環境が悪化し、P. gingivalisの量が増加する可能性があります。しかし、P. gingivalisの量を測定し、妊娠中期から妊娠後期までのそれらの量の増加に影響を与える要因を検討した報告は見当りません。その要因が明らかになれば妊婦の歯周病予防につながると考え、リアルタイムPCRによって定量的に検出した、妊婦の唾液中P. gingivalis密度と食事頻度、喫煙歴、口腔ケアとの関連性を分析しました。

 その結果、妊婦の食事頻度は、妊娠中期、後期ともにP. gingivalis の密度と関連は見られませんでした。喫煙歴は、妊娠中期、後期ともにP. gingivalis の密度の増加と有意に関連していました。歯磨きの回数は、妊娠後期のP. gingivalis の密度と負の相関がみられました。よって、妊娠期の歯周病菌の1つである歯周病P. gingivalisの増加は、喫煙歴と歯磨き回数と関連することが示唆されました。喫煙しないことの働きかけや喫煙歴の情報収集を行い、食事回数に見合った口腔ケアや妊娠後期の歯科受診を推奨する必要があると考えられました。これらの調査を機に妊婦の歯周病ついての研究が今後も進めば妊娠週数に応じたより具体的な歯科保健指導を実施できるようになるのではないでしょうか。

《論文紹介part. 3》(2023年7月)

Dietary Intake and Its Association with Birth Outcomes in Women with Nausea and Vomiting during the Second
Trimester of Pregnancy: A Prospective Cohort Study in Japanが2023年7月にNutrientsにPublishされました!
論文の概要をご紹介いたします!

 妊娠中のつわり (吐き気、嘔吐)は多くの人が経験する症状です。妊娠初期のつわりが食事摂取や赤ちゃんに及ぼす影響は明らかになっているものの、妊娠中期のつわりに焦点を当てた研究はありません。そのため、本研究では、妊娠中期のつわりの重症度が食事摂取量、妊娠期間中の体重増加(GWG)、赤ちゃんの出生時体重および出生時の妊娠週数と関連するかどうかを明らかにすることを目的として実施しました。

 参加者は、妊娠18~27週に質問票に回答しました。つわりの重症度は、modified Pregnancy-Unique Quantification of Emesis and Nausea scaleをという質問票を用いて評価しました。食事摂取は、簡易型自記式食事歴法質問票(brief-type self-administered diet history questionnaire)を用いて評価しました。

 合計825件の回答が解析されました。そのうち、つわりの重症度は軽度が202人(24.5%)、中等度が135人(16.4%)、重度が8人(1.0%)で、480人(58.2%)の女性は妊娠中期につわりを認めませんでした。エネルギーと栄養素の摂取量について、つわりなしまたは軽度、中等度または重度の2つのグループの間に有意な関連は観察されませんでした。中等度または重度のつわりを有する女性は、つわりなしまたは軽度の女性よりも妊娠期を通した体重増加が低くありました(p = 0.007)。2つのグループで低出生体重児の割合と早産の割合に有意差は見られませんでした(p = 0.246およびp = 0.604)。本研究は、妊娠中期のつわりの重症度が食事摂取および出生転帰と関連するかどうかを調査した初めての研究であるといえます。

《論文紹介part. 2》(2022年)

COVID-19感染拡大時期を過ごした妊娠中期の妊婦の口腔衛生行動と歯周病自覚症状が日本助産学会誌にPublishされました!
論文の概要をご紹介いたします!

 歯周病は妊娠期の女性が罹患しやすい歯科疾患として知られています。また、妊婦の歯周病は、早産や低出生体重児の増加と関連があり、妊娠期の口腔衛生行動は重要です。

 COVID‐19が流行し、感染予防のためにマスクをつけることやソーシャルディスタンスを保っての会話が日常的になりました。これらの感染予防対策による会話の減少が口腔の乾燥につながり、口腔内環境は悪化することが指摘されています。また、一般的にCOVID-19感染拡大時期に間食が増えた人が41.5%である一方、食事回数が増えても、口腔ケア行動に変化がないことが報告されています。さらに、緊急事態宣言後の歯科受診行動の調査では、47.2%が歯科受診の予約の取り消しや変更などをしたという結果が報告され、COVID-19により、人々の口腔内環境の悪化が懸念されました。未知の感染症、不可視である COVID-19 はリスクを高く見積もられる傾向にあるが、妊婦はCOVID‐19に罹患すると重症化する可能性があることが知られています。妊婦の歯科検診の敬遠や在宅生活が増えたことによる食生活の変化で、妊婦の口腔衛生状態の悪化が懸念されました。そこでCOVID-19感染拡大時期を過ごした妊娠中期の妊婦の口腔衛生行動と歯周病自覚症状について明らかにしました。COVID‐19感染拡大下にデータ収集を行いました。

 COVID-19感染拡大前よりも口腔ケアが増えた妊婦は33.6%であり、そのうち帰宅後、仕事中、歯磨き後のいずれかで水やうがい薬でのうがいの回数が増えた妊婦は86.8%でした。COVID-19感染拡大時期を過ごした妊娠中期の妊婦の口腔衛生行動は、感染予防のために口腔ケアを行う者が存在しました。一方で、1日の食事回数は4回以上の妊婦は66.3%、1日の歯みがきの平均回数は2.9±0.8回であり、間食後に歯磨きを行う者は9.7%であったことから間食後の歯みがきを行っていない者がいることもわかりました。妊娠してから妊娠中期までに歯科受診した者は56.6%であったが、その中で歯科受診後も「歯周病自覚症状有り」に該当した妊婦は53.1%いました。COVID-19感染拡大時期でも高い歯科受診率であったことはCOVID-19終息後の受診率にも期待の余地があると考えられました。しかし、妊娠してから妊娠中期までに歯科受診をしていても、その後歯周病自覚症状が有る妊婦が存在したことから妊娠中の定期的な歯科受診の重要性が示唆されました。

《論文紹介part. 1》(2021年)

山形大学におけるCOVID-19感染拡大下でのJ-PEACH Studyの取り組み  
2021年にDOHaD研究に掲載されたJ-PEACH studyの山形大学での取り組みの報告書の要旨を紹介いたします!

 The Japan Pregnancy Eating and Activity Cohort Study: J-PEACH Studyに参加している山形大学は、2020年、COVID-19 の感染拡大により生活行動の自粛や緊急事態宣言が重なった時期にリクルートを開始しました。また、山形大学では、J-PEACH Studyの基本調査に加え、妊婦の妊娠中期と後期の歯周病関連菌の検出量と同時期の食生活習慣や口腔ケア行動との関連を検討することを加えました。

 調査方法は、WEB調査に変更し、2020 年 12 月 23 日時点で、同意数 85 人(同意率 93%)でした。WEB 調査による回収率は、妊娠中期 100%、妊娠後期 100%の結果でした。調査期間中、COVID-19 陽性妊婦の受診があり、一時調査を中止しましたが、それ以外は順調にリクルートが行えました。本調査の対象年齢は 20-30 代であり、この年代は、Social Networking Service(SNS)の利用率が 90%以上といわれており、WEB 調査にも抵抗が少ないと考えられ、回収率100%につながっていると思われます。また、WEB 調査は、従来の調査方法の回答において、再現性は同等であるという報告や倫理的問題も他の調査方法と同等であるという報告から、本研究で得られたデータの信頼性は確保されていると考えています。

 一次集計では、COVID-19 感染拡大となり、妊婦の歯科受診の敬遠や在宅生活が増えたことによる食生活の変化で、妊婦の口腔衛生状態の悪化が懸念されました。一方、調査の中でわかったことは、感染予防対策のためいつも以上にうがいの回数が増えている妊婦もいることでした。このように COVID-19 感染拡大時期を過ごしている妊婦の食事摂取、身体活動、日常生活習慣、体重への認識、口腔内の衛生状態のデータを収集することができ、今後の新知見につながることを期待します。